『ポケモン』は実存に先立つのか

ポケモンの新作が発表されましたね。

…などと、あたかも新作タイトルの発売を待ち望むいちファンとして皆様のお気持ちを代弁、といった塩梅の書き出しをした手前恐縮ですが、私は同タイトル作品は金・銀を最後にプレイしておらず、直近作品や近年の動向について把握していません。

そんな立場で「いや~ついに発表されましたね~これは期待ですね~」などと、そこかしこで雨後の筍のごとく見受けられるゲーム系YouTuber(ゲーム系って何という感じだけど便宜上)がいかにも発しそうな、毒にも薬にもならない極めて些末な、その発言によって何も世界は変わらないし引き続き人類は互いを殺し合い大地を舐り続けること自明な、しょーもないことを宣う気は毛頭ありませんし、ましてや私のポケモンへの理解力は上述通りですから、雨後の筍系YouTuberと比較し当該タイトルにおける情報力では衰えていると言わざるを得ず、そうした状況下で同様の発信を行うことはすなわち「私は発信者として"下"の"下"である」と喧伝することになりかねないので、とどのつまり雨後の筍より下にはなりたくないです。

だとしたら、この記事の目的は何か。

それは「ポケモンポケモンと呼ぶのおかしくない?」という疑問が生じたため、ひとつ考えをまとめてみようではありませんか、というものです。

ちょっと考えてみて欲しいのですが、『ポケモン』という呼称、おかしくないですか。
ポケモン』とはモンスターボールに出たり入ったりするモンスターの総称、という理解なのですが、どうも違和感がぬぐえません。

「前後があべこべではないか?」という違和感を、『ポケモン』という言葉から感じるのです。

この段階でもう結構な数の同意を得られるのでは?と思っているのですが、どうでしょう。あるいは「かような疑問を呈されたとて、私がポケモンについて何らかの言及をする際に、ポケモンという呼称を用いることについてなんら疑いの余地無し」という感じでしょうか。

私が感じた疑問・違和感を説明するためには、『ポケモン』こと『ポケットモンスター』は、なぜ『ポケットモンスター』と言うのか、語源から紐解く必要があると思いますので、ちょっと考えていきます。

まず、『ポケットモンスター』という言葉(単語/名称)は『ポケット』と『モンスター』の2つで構成されている熟語であると言えます。

『ポケット』とは、辞書によると

①衣服などに縫いつけた袋状の小さな物入れ、隠し。
②形状が1に似たくぼみ(ビリヤードの球台の受け穴など)

を指す言葉であると定義されており、より解釈を進めると「携行可能な」という意味合いであると言えそうです(これについて疑問の余地はないかと思います)。

次に『モンスター』ですが、本稿で展開したいことと直接的な関連性はないため、そのまんま『モンスター』で問題ないのですが(実際に以降も『モンスター』と記述)、ついでだからせっかくなのでの精神により辞書を引いたところ、以下のように記載されておりました。

①怪物。化け物。
②巨大なもの。
③圧倒的な存在感や影響力をもつ人や物。

①怪物・化け物については、『ポケモン』は可愛らしい容姿をしている個体が多いことからも(可愛いではないにしても格好良いとかファニーとか)、ちょっと大袈裟というか、強いなと感じます。また②巨大というには大きさも多様です。③に至ってはまず人・物品ではありませんし、「圧倒的な存在感」とするにはあまりに個体差があります。
その上で解釈を進め、『モンスター』とは「(現実世界の)生物学では定義できない、なんかちいさかったりでかかったりするかわいいやつ」であるとします。まぁこれについては別解釈の余地が多分にありそうですが、先に述べた通り本稿と直接的な関連性はないためこの場では問題なしとします。

さて、以上を踏まえ『ポケットモンスター』という言葉(本質)を定義すると

携行可能な、なんかちいさかったりでかかったりするかわいいやつ*1

となります。

しかし、おかしいですよね。「携行可能」とされていますが、これって「モンスターボール」の存在(発明)によって実現された要素です。なぜ『ポケモン』の実存(存在)ありきで開発された「モンスターボール」によって、『ポケモン』が定義されているのでしょうか

これって不合理で、上述の「前後があべこべではないか?」という違和感の原因はここにあるな、と思うわけです。

「ちょっと何言っているか分からない」という方のために、もう少し詳しく解説します。
上述で紐解いた語源の通り、『ポケモン』が『ポケモン』となった理由は、<人類と『モンスター』がそれぞれ別の世界観で存在していた自然界に、『モンスターボール』が持ち込まれたことにより、両者が"関係"するようになった>ためと考えられるのですが、これがおかしいのです。
『モンスター』を携行可能な『ポケモン』にするための存在である「モンスターボール」のもたらす作用が、「モンスターボール」が開発される以前より自然界に実存していた(はずの)『ポケモン』の"本質"になってしまっていることで、先天的な要素Aによって生じる後天的な要素Bにより、先天的な要素Aが定義されるという、本質のもたれかかりとでもいうべき事象が生じているのです*2

考えれば考えるほどおかしな話ですね。モンスターボール開発以前、人類は『ポケモン』のことをなんと呼称していたのでしょうか

では、『ポケモン』を『ポケモン』と呼称するに足る合理的シチュエーションは存在するのか?存在するとしたら具体的にどういった状況かを検討し、3つの仮説を立ててみました。

  1. ポケモン』とはあくまで俗称であり、学術的には全く異なる名で呼称されている
  2. モンスターボール」の開発が先行されており、後から『モンスター』が自然発生的に顕在化した
  3. 『モンスター』は自らを携行可能な状態に変質させる能力を備えており「モンスターボール」はその性質を利用している

1.『ポケモン』とはあくまで俗称であり、学術的には全く異なる名で呼称されている
1については、コンテンツ内で説明されていないが裏設定として存在する、もしくは私が把握していないだけでコンテンツ内で言及されている可能性は十分にあり得ます。その場合については「知りませんでした」としか言いようがないので、もしご存知の方がいれば教えていただきたいです(もしこの1だったとしたら本稿は大変な茶番、単なるいちゃもんになりますので即謝ります)。

2.「モンスターボール」の開発が先行されており、後から『モンスター』が自然発生的に顕在化した
2については、『ポケモン』が『ポケモン』であることに関する観点では合理的と言えそうですが、そもそも「モンスターボール」の開発が先行とはどういうことですかね。
「何に役立つか知らんけどなんか作ってみた」ということでしょうか、それはありえないでしょう。人間は本質的に「意味のないもの(目的のないもの)」を作り出すことは出来ないからです*3
私の理解度の範囲内でさえ、ポケモン(モンスターではなくコンテンツそのもの)の世界における「モンスターボール」は、『ポケモン』を捕獲・携行するために徹底的に最適化されているとしか考えられない描写が多々見受けられます。これについては火・水はては幽体に至るまで、身体構造や構成要素が多岐にわたる『ポケモン』を一括りに捕獲できることからも自明です。
食料・水・衣類といった必需品をボールに格納し携行していないことからも、『モンスター』のみを捕獲・携行することを目的に開発されていることは事理明白で、そうした質の高いプロダクトを生み出すには対象への極めて仔細な研究が必須、ましてやなんの目的もなく惰性で開発していたプロダクトを転用して為せる仕事ではないことは火を見るよりも明らかです。
では、<当初あらゆる物品を携行できる便利なプロダクトとして開発・運用していたが、新種の生き物(モンスター)が顕現(発見)されたことを機に、モンスター捕獲に最適な仕様に変化した歴史がある>と仮説立てするとどうでしょう。これについては「ボールでの物品運搬はモンスター顕在化(発見)を機にやめたのかよ」というツッコミが入る余地があり不合理と言えそうです。人間は一度手にした利便性をそう易々と手放すことは出来ない生き物なので、仮にそうだったとしても、モンスター捕獲用と物品運搬用とで分かれて発展していくのが合理あると考えます。
<ボール製作に必要な物質(鉱物など)が希少であるため、合理的判断に基づきモンスター捕獲用にのみリソースを費やす方針とした>という可能性を検討しましたが、これも無いと言えそうです。「モンスタボール」は作中のお店にて、学生でも購入可能なほど安価で販売されており、希少価値の高い物質で構成されているとは考えにくいからです。
つまり2に関しては、2の状況それ自体が不合理であるため、やはり『モンスター』の捕獲のために「モンスターボール」を開発したと考えるのが妥当である、と言えそうです。

3.『モンスター』は自らを携行可能な状態に変質させる能力を備えており「モンスターボール」はその性質を利用している
私としては、3はある程度は納得できるのですが、作中でそれらしい言及はあるのでしょうか。少なくとも私は存じておらず、かつ調査しても特にそれらしい記述は見受けられませんでした。
また、この説に則ると、そもそも何のために携行可能な状態に変質する能力を得たのか、という新たな疑問が発生します。生物は進化の過程において、自らの生存を図るためのアップデートを重ねますが、「携行可能な状態への変質」がどういった生存戦略に繋がるのかが不明瞭です。
仮にその不明瞭な要素がクリアとなり、<あらゆる種(犬とか鳥とか)のうち、人類との共存を望んだ個体が携行可能な能力を有するようになり、現在の『ポケモン』に至った>などと議論を展開させたところで、ちょっと苦しいように思います。その場合、『伝説のポケモン』の存在について説明がつかないからです("伝説"なので存在すら曖昧=未だかつて捕獲した経験がないのになぜ「携行可能」と判断できるのか?)。
以上のことから、3はある程度の説得力は有しているとは思いつつも、メタ的視座(いちユーザー)による後付け・こじつけの域を出ず、私の抱える疑問・違和感の答え(真理)には至っていない、と結論づけざるを得ません。

仮説検証の結果として、1が成立した場合を除き、『ポケモン』を『ポケモン』足らしめるのは「モンスターボール」であり、かつその「モンスターボール」は『ポケモン』という実存ありきで開発されている、と結論を導く他なく、先に記述した本質のもたれかかりともいうべき問題との衝突は免れないこととなります。

かの実存主義の哲学者ジャン=ポール・サルトルは、「実存は本質に先立つ」という言葉を残しました。存在、本質の価値および意味は当初にはなく、後に作られたのだ、という考え方です。

しかし、こと『ポケモン』については「本質が実存に先立つ」状態と言えそうです。

これは不合理なのか、または合理なのか…今後も追及していきたいと考えております。

ちなみに起稿時では、今回展開した問いから「モンスターたちの"クオリア"が蔑ろにされているディストピア的世界」という話に発展させるぞ~!と息巻いておりましたが、存外長くなったのでそれはまたの機会にします。

一応本稿の狙いはウケ狙い「哲学的問い」であるため(にしてはところどころ稚拙であるかと思いますが)、異論や反証は願ってもない機会ですから、すべて謹んで受け付ける所存です。

ただし「哲学的問い」と明記した以上、「そんな事どうでもいい」とか「それ考えて何に役立つの」とか、そういった類の異論は受け付けませんのでご了承を…。

2024/02/29追記:友人から「ポケモンはあくまで電子的な存在であり、過去または現在、人間によって作られた存在(拡張現実を進化させたようなもの)ではないか」との意見をいただきました。その点については全く考えが及んでいなかったので、まさに目から鱗です。ポケモン=(人為的な)電子的存在と仮説立てすると、あらゆる疑問に説明がつく気がしていますので、引き続き調査および思索を深めていきたいです(なんなら原作にもそれっぽい言及あるのでは?と思うほどに説得力溢れる説だよなあ…)。

2024/02/29追記②:上記に関連する文献を発見しました。2001年に作成されたページの模様です。特にドリル番長さんの「メタモンポケモン原種説」は大変興味深い。先人たち(?)も同様の疑問に衝突していたのだな、と思うと感慨一入。
ポケモン学 ポケモンの起源に関する考察

2024/02/29追記③:①について調査したところ「人工ポケモン」なる存在に出会しました。よくよく考えると、そのような説明がなされた『ポケモン』が、幼い頃にプレイした赤Verにも登場していたな、と…。「人工ポケモン」は対義的な存在「非人工(自然)ポケモン」あってこその存在と言えるため、①の説はより慎重に思索を進める必要がありそうです。ちなみに「人工ポケモン」とはミュウとかミュウツーとかポリゴンとかのことですね。

*1:一説によると、ゲームフリーク社は当初ゲーム名を「カプセルモンスター」にしたかったが、カプセルモンスターは既に商標登録されていたために使えず、そこで「ボールに収納すればポケットに入るから」ポケットモンスターにした、と関係者のインタビューで語られていたそうです。出典不明のためあくまで俗説として。

*2:「てめーは何を言っているんだ」という方のために、より分かりやすく、かつ誤解を恐れず俗っぽく例えますと、『ポケモン』を『ポケモン』とすることとは、ハムスターを「籠入りネズミ」と"学術的に"呼称するのと同義ではないか(籠とはハムスターと人類の"関係"によって生じる謂わば後天的な要素に過ぎず、ハムスター自体の本質とは無関係)、と言いたいのですが、伝わりますかね。

*3:例えば今この場で「無意味なもの」を作ってみてください。ガムテープの接着面同士を貼り合わせたもの、ビニール袋の口と口を繋いだもの、何でもいいです。さて、作り出したものは「無意味」と言えるでしょうか、言えないですよね。なぜなら「無意味なものを作る」という意味(目的)において「有意味」だからです。これは価値(外在的・内在的)に置き換えても同様です。この不可避のロジックにて、人間は「本質的に無意味なもの」を作り出すことは出来ないと言えます